「あひぃ! ひぁはぁ!」
ヴィーナスが自己を認識したのは、凄まじい感覚によってだった。
「なにこれぇ!?」
相変わらず姿は見えないが、自らの身体に何かが触れる感覚がある。ヴィーナスにとってははるかな昔に失ってしまった感覚だった。そう、触覚という名の感覚が自分に存在したのかと実感させられる程に長く忘れていたものだった。
「むぐっ! ふぐぅっ」
そして、口。自分に口という器官があり、そしてそこへ何かが差し込まれている。なんという新鮮な感覚だろうか。無理やりにこじ開けられ、喉を犯される苦しさ。そして、差し込まれている何かが分泌する体液の甘さ。
(これ、これは何!?)
まるで赤ん坊のように、何もかもが初めてのように感じてしまう。
(苦しい、けど美味しい……)
口に差し込まれた管は適度な感触を口内にもたらす。
(すごく……気持ち良い……)
気持ち良いことだけはハッキリと解る。これが甘いという事であり、苦しさの合間に感じる快楽であり、身体を触られるという感覚。
「んんんんんんぅ!!」
胸を吸われ、いつの間にか秘部に差し込まれた管からは熱い何かが流し込まれる。
(あぐぅううぉおおおおおお! なにこれぇ! き、気持ちいいっ!)
流し込まれる液体、吸われる体液。ひくひくとヒダが痙攣し、異物の進入を歓迎する。熱は身体中を、外から、中から焼き尽くすように襲い、涙と涎が止まらずに垂れ落ちる。先程までとは違う意味で、身体が動かない。激流のような快楽に思考は停止寸前となり、筋肉は痙攣し、ただ体液を流し込まれ、垂れ流すだけの肉人形に成り下がる。
「ふへへへぇえええええ……いひぃいいいいのぉおおおおお!」
口から抜かれる管。零れ落ちる堕落の言葉。
(あはぁ……何も、かんがえ……られ、ない……)
休む暇も無い快楽は、ヴィーナスにとってはさらなる永久の快楽のように錯覚させた。以前までの静かに自己を失うものとは異なり、今度は激流によって自己を見失わせた。
そう、着実にヴィーナスという存在は薄れていった。そして、新たに生まれ始めるのは浅ましい獣。肉欲を貪る堕落した獣。
「ふにゃああああああ!!」
へその緒のように膣と管は融合し、栄養と快楽が永続的に流し込まれる。両手は別の触手の管をしっかりと掴み、そう、掴むという行為を覚えて交互に先端からほとばしる甘い蜜を貪り飲む。
「にゃあぁぁああああああああ! もっと! もっとちょうらい!」
心は作り変えられ、それを反映するかのように肉体は獣そのものの姿へと変貌していく。すでに人間の耳ではなくなっていた。
「ふぅー! ふぅー!」
荒く息を吐き出し、秘部から脳天へと常時送られる快楽を噛み締めるように味わう。そのたびに、細い指先のグローブは避け、鋭利な爪がその姿を覗かせる。
「おひりがっ おひりが熱いぃいいいいい!」
そして今まさに、尾てい骨に新たな感覚が生まれ始める。人間には無い器官。はるかな昔に捨て去った尻尾が、ゆっくりと、その先端を覗かせ始めていた。
ヴィーナスにとってははるかな昔。かつてこの化け物に飲み込まれる前に遭遇した獣達は、このようにして生まれていたのだ。人間を種とし、蛸のような化け物を母胎として、新たな妖魔として生まれ変わらせる。人間から妖魔への転生装置。
「おいひぃ! きもちひひいいいいいにゃあぁああああ!」
新たな妖魔の赤子は、人間としての形態を徐々に変貌させ、母乳を吸うように触手を交互に口に含んでは甘い液を吸い上げる。それが自らの存在を作り変えるものとも知らずに、ひたすら貪る。
「お、おぉおおおおおお!」
肉体が音を立てて変貌する。ハイヒールシューズは音を立てて千切れ飛び、かつてそこに収まっていた綺麗な足先は獣のように膨らみ、足の裏には肉球さえ生まれていた。
さまざまな獣へと人間が変貌、転生していったその中で、ヴィーナスが生まれ変わるのは猫だった。それも、かつての美貌はそのままに、快楽に表情を歪める猫。
「にゃああああああああぁああああ!」
鋭い犬歯を光らせて、長く伸びた舌を躍らせて咆哮する。所々に体毛が生え始め、今では顔の大きさ程に成長した耳が体の動きに合わせて揺れる。
長い間身体の感覚を失っていたヴィーナスにとって、新たな器官の感覚は初めからそこに存在していたかのように動かしてさえみせた。何も不思議なこと等何も無い。この心地よい胎内で、この素晴らしく甘美な快楽を享受すること以外に、何の興味も無かった。
「にゃああああぅ! ふにゃあっぁああああああ!」
何度目か、いや、常時高みに達する快楽の中で、金星を守護に持つセーラー戦士、セーラーヴィーナスは生まれ変わっていった。