狂信


 

 異様な雰囲気が室内を満たしていた。女性の低い声で呻き声のような祈祷が響く。何もかもが異様だった。
「ブータン ブータン」
 それは抑制の無い声で、延々と続くかのような祈祷。
 まず全ての女性が、裸も同然の姿で怪しげな動きで腰を振っている。官能的に、ゆっくりと腰を回すのだ。そして身体には落書きのような紋章が描かれている。しかし、顔はまるで真剣そのものであり、冗談などで行っているわけではないのは明白だった。
「みちるっ」
 唯一まともな姿をした女性は叫んでいた。まとも、と言ったが、この空間だけでの限定だった。彼女も、普通の女性とは異なるコスチュームを身にまとい、四人もの女性に身体を押さえ付けられ、まるで眼前の光景を見せ付けられるかのようにされている。
「んっ……はぁ、教祖様……んん」
 みちると呼ばれた女性。他の女性と同じ様な姿で、しかし元々持っていた高貴さが現在の姿を余計に悲惨にしている。そう押さえ付けられている女性は感じていた。セーラーウラヌス。そう、彼女の唯一のパートナーであるセーラーネプチューンは、教祖と呼ばれた豚のような男の前に傅き、醜悪なペニスを愛おしそうに頬へと近付け、グローブ越しの手で大事に支えている。


「教祖様の、ご奉仕をする事が出来まして、下僕は大変幸せでございますわ」
 ぺちゃぺちゃと嫌らしく音を立てながら、大事に大事に舐め上げる。以前の彼女を知る者ならば考えられない行為だった。
「んちゅッ、んぅ……美味しい、ですわ。光栄、です」
「みちる! よすんだ! やめてくれっ」
 そんな彼女など見たくは無かった。チンカスに汚れ、腐臭さえ漂う醜悪なペニスを眺めるだけでも願い下げであるのに、あろうことか、それを嘗め回す等、とても正気の沙汰とは思えない。いや、この空間で正気を失っているのは、自分なのではないか、とさえ思えてくる。
「私は、セーラーネプチューンは愚か者でした。んっ、はぁ、はぁ、れろ、んちゅぅ」
 汚らしく音を立てて、ペニスの汚れを吸い上げる。睾丸を優しくも見上げながら、自分が触れた場所を清めるように、舌先で丁寧に拭っていく。
「なかなか上手くなってきたものよのぅ」
 必死で奉仕をするネプチューンに、まだまだと言わんばかりの横柄な態度で接する醜悪な教祖。ウラヌスの憎悪は教祖へと向かっていた。自由になったならば、その肉体をチリにしてやる。何度そう思ったか知れたものではない。
「ん〜? 貴様、何打その目は」
 ネプチューンに己のペニスを掃除させながら教祖は冷たくウラヌスを見据えた。
「ぐふ、ぐふふ、不心得ものめが」
 ネプチューンは必死に、落ち度が無いように卑屈に卑屈にペニスを舐める。その姿は本当に哀れであった。だが、他の女性達にとっては違う。この行為はまさに神に奉仕するに等しい行為なのだ。彼女たちの価値観は、全て教祖に尽くす。それに徹していた。ネプチューンなど、神に近付いているだけに、羨望の眼差しでさえ見られているのだった。
(ぼくがっ、ぼくが馬鹿だったっ)
 一体どうしてこうなってしまったのか。普段相手にしている敵よりは、幾分か楽だろうと高をくくっていたのかもしれない。女性が次々と入信するという宗教組織に潜入したまではよかったのだが、不覚にも厳格効果のある香で動きを封じられ、呆気なく囚われてしまったのだった。
 二人はバラバラに連行され、ようやく再会できたのが今目の前のネプチューンだったのだ。
「まあよい、そこで見ているが良い。この従順な信者が余に奉仕する様をな。ぐふ、ぐふふふふふ」
 醜く唾を飛ばしながら笑う教祖。その言葉と同時に、ゆっくりとペニスを舐めていたネプチューンは教祖の股を跨ぐと、そこへ座った。表情は屈辱に歪められたものではない。これから行われる行為への期待と喜びに満ち溢れていた。
「どうぞ、この下僕へお恵み下さい教祖様」
 艶っぽい吐息と共に、ネプチューンの頬が上気する。
「うむうむ」
 下品さを微塵も拭えていない表情で鷹揚に頷く。教祖は微動だにしなかった。全てネプチューンが自ら動くのだ。
「では、お願い致します。」
「や、や、やめろぉおおおおお!!」
 ウラヌスは叫んでいた。ネプチューンが己の尻を教祖へと捧げるのだ。それは同姓ではあるが愛し合っていたウラヌスへの裏切り。
 ウラヌスの叫びも空しく、ネプチューンは教祖のペニスを、自らの菊穴へと治めると、ゆっくりと腰を下ろしていく。
「ひっぁ、ぁ、ぁあああああ」
 不浄の穴が、教祖の極太ペニスによって押し広げられていく。あんなものが入るはずが無い、とウラヌスは思っていたが、既に何度も入れられたのだろう。ペニスはゆっくりではあるが、すんなりとネプチューンの中へと収まっていった。
「いひぃいいい! いいれす教祖様ぁ!」
 他の女性たちの仕草にも似ているように、腰を上下に揺らし、教祖のペニスを治める。腸壁で、肛門で教祖のペニスに喰らいつき、締め上げる。
「おぉおお! 流石よのう! そちは名器であるぞ」
 肛門を犯し、それでも自ら動こうともしない教祖だが、そのネプチューンの肛門は教祖の快楽を十分に引き出していた。


「こ、光栄ですわ教祖様!」
 だらしなく口を開きながら、自らも奉仕を味わう凶信者。ウラヌスにとっては悪夢でしかない光景だった。
「ひぁぁん! 教祖様の、素晴らしい逸物で、私の不浄を清めて下さいましぃぃいいいい!」
 嬌声を上げながら、狂ったように腰を振るかつてのパートナーを見て、ウラヌスは呆然とそれを眺めていた。自らにも見せたことがない表情。教祖に見入られ、この訳のわからない教団の一員となって一心不乱に腰を振るネプチューン。それは、既に自分の知っているネプチューンではなくなっていた。
「おっ おっぉおおおお!」
 口を丸くし、教祖のペニスを身体全体で受け止める。教祖はだらしなく顔を歪ませながら、ネプチューンの紺碧の髪を汚らしく舐めあげる。教祖の唾液に塗れた髪を、愛おしそうに、ネプチューンは口に含んだ。
「あっ、はぁ! おひりっ! おひりでイッちゃいまふぅ!!」
 舌の回らないまま、教祖へ告げるネプチューンに、教祖はそれを許した。
「さあ、イクがよい。これを繰り返すことで神へと近付くのだ!」
「はっ、はっ、はひぃいいいいいいい!」
 応えた瞬間が頂点だった。ヒクヒクと身体を痙攣させ、だらしのない緩んだ表情で、尻にペニスを突き刺されたまま、ネプチューンの意識は焦点していた。神へと近付いた。彼らの教義ではそうなっていた。
「やめてくれ……もう、こんな……」
 狂いながら奉仕を続けるネプチューン。そして項垂れるウラヌス。しかし、本当の儀式はこれから起ころうとしていた。