実験ケース 数多


 教会から始まった悲劇。膨れ上がった幼虫は、仲間を増やし、やがて一〇人以上のシスターを飲み込んだ。

 飲み込まれたシスター達は、やがて幼虫の餌食となり、大した抵抗も出来なかった。

 そして、恐るべき事態の胎動が始まった。

 教会を埋め尽くす幼虫は、まるで一匹の生物のように、全てのシスターを飲み込み、貪り、そして材料とした。それはマーニャが辿った出来事の再現。

 一つだけ違うのは、シスター達が一斉に嬌声を上げ始め、快楽に身を震わせ、自らそれを受け入れ始めた事だった。

 苦痛などまるで無く、自ら進んで、その『進化』の為の準備を受け入れていく。

 次第に触手の群れに飲み込まれ、無数のシスターのような人の形の盛り上がりが出来上がると、再び教会に静寂が戻った。

 そして一匹の蝿。マーニャは、なおも幼虫を生み続けていた。

 

 

 あの仇討の失敗。

 ミネアはオーリンに助けられ、モンバーバラへと戻っていた。姉であるマーニャも共に逃げるはずが、逃亡の当日になって姉の姿が見当たらなかったのである。

 新たな再起を誓い、そして姉を救出すべく、モンバーバラで様子を伺っていたミネアは、その悲劇の夜の当日に出くわしてしまった。そう、救出しようとしていた姉が、自らモンバーバラへとやってきたのだった。望まれぬ形で。

 異変は教会で始まり、そして踊り子達が集う劇場に波及した。教会から孵化したシスター達が一斉に町へと飛び出したのだ。

 襲い来る幼虫の群れ。それは踊り子や客、まるで区別も無く一斉に襲いかかった。そして、ミネアを除く全ての人間が、餌食となってしまった。

「なんて事……ッ」

 真空魔法で幼虫を切り裂き、その身を守る事に必死だったミネアだが、この騒ぎの中心を発見して愕然とする。

「……そんなっ」

 その醜悪な姿に身を落としたとはいえ、その顔は紛れもなく最愛の姉だった。

「ねえ、さん……ッ」

 信じがたい現実。あの気丈で、常に冗談を欠かすことがないミネアにとっては世話のかかる姉。それが、今や蝿女と化し、邪悪な表情で下卑た笑い声を響かせながら、醜悪な幼虫を生み出し、町の女性達をその餌食としている。

「い、いや……」

 見れば、すでに周囲の女性は全てが堕ちていた。そして、一人残ったミネアへと、全ての女性が矛先を向けている。

「姉さんっ! 正気に戻って姉さんっ!」

 だが、その姉はミネアを見つけるや全ての仲間へと命令を下した。それは声ではなく、何か甲高い音波のようなものだった。

「いやぁ! やめて! やめてぇ!」

 迫り来る女性たちを跳ね除け、かわし、その場から駆け出そうとするミネアだったが、多勢に無勢だった。堕ちているとはいえ、女性を自らの魔法で傷つけるわけにもいかない。

そして、ミネアはマーニャの元へと引き出された。

「くひひひぃ!」

 最上の獲物を前にした蝿は、舌を鳴らし、過呼吸でそれに応えた。