実験ケース 脅威

ゴポゴポ

 牢屋から連れ出され、目隠しをされ、密閉した空間に入れられ、そして現在マーニャは水槽のような入れ物の中にいた。

 得体のしれない溶液に満たされた水槽(バルザックは調整槽と呼んでいた)に入れられ、ガッチリとした手枷足枷をはめられ、身動きを完全に封じられ、胸の先端には異形の管が張り付き、身体の中へ何かを終始流し込み続ける。口も同様に、酸素と液体が絶え間なく流し込まれていた。

(身体が……あ、あ、あ、あつい……)

 消えることの無い灼熱感。胸の先端、口から流し込まれた液体のせいなのは明らかだった。

(ひぐっ)

 ある時期からは、女性器にも異形の管が差し込まれ、穴という穴、そして身体の全てを包み込む溶液と、マーニャという肉そのものに、液体を摺り込んでいく。

 そんなマーニャを、バルザックは部下と共に調整槽の外から眺めていた。キングレオ城の、牢屋よりもさらに地下に作られた実験施設。そこで行われる実験の数々。成果は着実に上がっており、もはや完全な進化と呼べる状態まであと一歩という段階に入っていた。その最初の実験を、マーニャを用いて行っていた。

「経過はどうだ?」

「今のところは順調でございます。数多の魔物から抽出した高濃度の魔素は、この女の身体に、ほとんど同化に近い形で浸透していっております。今の段階でも充分に魔物として通用するかと……」

 過去の実験では、これ以上の浸透を行った場合、生物は進化を制御できずに、生物としては全く役に立たない肉の塊となってしまう事が判明していた。

 だが、バルザックは黄金の腕輪と呼ばれる制御装置が不可欠だと突き止めていたのだ。そしてそれは紛い物であっても効果を発揮し、辛うじて役に立つであろう実験結果も残している。

「この女ならば、持つだろうよ。おい、妹も貴重なサンプルだ。ついでに調整槽にいれてしまえ」

 そう言ってバルザックは実験施設を後にする。マーニャが調整槽に入れられて二週間も経過していた。

 

 

 進化の秘法実験の成れの果て。ゴミ捨て場と呼ばれる部屋に、マーニャは連れてこられた。

 実験の失敗により、肉の塊となった人間、家畜、魔物の成れの果てが寄り集まって出来た肉の部屋。

 マーニャは実験失敗と判断され、捨てられたのだ。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 マーニャの肉体は、進化の制御をすることが出来なかった。肉体は溶け始め、新たな筋肉が隆起して外骨格を形勢。

 美しい指は、今や数倍にも膨れ上がり、化物のような大きさと異形さで進化を続ける。

「あぎぃいいいいいいいいいいいいいっ!」

 女性器からは男根が伸び始め、その先端の亀頭がパックリと割れたかと思うと、醜悪な牙が姿を見せる。

「あ、か、身体がぁ! わたし、のぉ、からだぁ……ァ!」

 醜く変わっていく己の身体。のたうち回り、這いずり回り、懸命に進化を抑えようとするが、どうすれば制御など出来るのか、はっきり言って解っていないのだ。ただただ暴れまわるように身体を動かさなければ、自分がどうにかなってしまいそうなのだった。やがて放っておけば、マーニャもこの部屋の一部と成り果てるだろう。

「いいザマだな、えぇ?」

 バルザックが、のた打ち回るマーニャを冷ややかに眺め降ろしていた。まるで汚物でも見るかのようなその視線は、かつてマーニャがバルザックに対して投げていたものと全く同じものだった。