実験ケース 牝牛

「きっさまぁ……もう許さんぞ」

「許さない? それはこっちの台詞よ! 許さなければどうするってワケ? 殺す? 犯す? 勝手にしなさいな!」

 売り言葉に買い言葉の応酬が薄汚い牢獄に響き渡る。そうだ、ミネアがこれを聞いていれば、という期待も込められていた。

「いくらあんたが、あたしに何をしても、心までは絶対に屈しない。何でもかんでも思い通りになると思ったら大間違いだわ!」

 ゾクリとバルザックの心を揺さぶる一言。

(そうだ、俺はこいつをめちゃくちゃにしてやるんだ)

 バルザックには、マーニャが鼻持ちならない高飛車な小娘に見えていた。それは過去も、現在も変わらない。

「そうか、ならば俺にも考えがある」

 バルザックは冷たく吐き捨てると、部下に何事かを小声で命じる。その醜い微笑は全く見るに耐えないものだった。

「何をしようとも、あんたみたいなゲス野郎のする事なんて、どうせたかが知れてるんだから。気に入らないならさっさと殺しなさいな!」

「言ったな小娘が……」

 青筋を浮き上がらせ、バルザックはその無骨な獣の指を器用に鳴らす。

「俺を怒らせるとどういう事になるか、教えてやる。」

「自分じゃ何にも出来ないってわけね……あんたはやっぱり小さい男だわ」

 恐ろしい宣言も、マーニャにはまるで堪えていないようだった。それどころか、なおも挑発してくる姿勢にはバルザックも少なからず驚く。

 そして、自分をまるで恐れていない小娘には、徹底的な絶望感を与えたい。

「ありったけの魔素、貴様に注ぎ込んでやる。つまり、貴様も俺と同じように、人間ではなくなるわけだ」

「……」

 迫り来る運命。牢獄に続々と運び込まれる実験機材。配下の魔物は淡々と準備を始め、まるでマーニャを人間として扱ってはいなかった。

「ちょ、やめなさいよ!」

 無機質の管を、マーニャの口へと近付ける。

「ッ」

 マーニャは懸命に口を閉ざし、逃れようと顔を背ける。

「無駄なあがきだ」

 マーニャの頬を掴み、顔を管へと強引に向ける。バルザックの強靭な力に抗えず、無力にもマーニャの顔は管へと向けられた。

「だ、れが……ぁ」

 だが、頬を強引に押され、強引に開いた口に一気に管は差し込まれた。

「んむぅ!」

 そこまで行ってしまえば、後は流れる作業となった。管の元に備え付けられたタンクから液体が流れだし、管を伝ってマーニャの口へと流し込まれる。

「ふぐぅううううッ!!」

 管が固定された口内には、容赦なく魔素の原液が流し込まれる。それをマーニャは防ぐ事が出来ない。

(く、るしいっ!)

 吐き出すことも出来ず、身体へ流し込まれ続ける液体。それはやがてマーニャの胃を満たし、許容量を超える。

「ぐぼっ」

 固定された口の隙間、鼻から、あふれた液体が吹き出す。涙が自然に流れだし、引き締まった腹部はポッコリと膨れ始める。

「あっはっはっは、いいざまだなマーニャ。情けない無様な顔だ! このまま三日間、ゆっくり味わってくれよ」

 馬鹿笑い。実際にバルザックは愉快だった。涙を流し、初めて苦しそうに顔を歪めて、救いを求めるような瞳を見せたのだ。

「むぐぉぉっ!!」

 くぐもった断末魔が、牢屋に響いた。